福島市の渡利地区にある「花見山」。
花見山の中心、花見山公園は花卉園芸農家・阿部さんの花卉栽培場です。
現在のように一般の人が自由に見ることができるように開放したのは53年前からだそうです。また、阿部さんの栽培場の周囲の花卉園芸農家さんの花木も一斉に咲き誇ることからその地区一帯を総称して「花見山」と呼ばれ、現在では毎春30万人もの人が花を愛でるために訪れる人気スポットになりました。
花卉園芸場では生産者の皆さんが生け花など出荷用の花木を育てています。
その花木が里山に彩りを添え、四季折々の風景をつくり出しているのが特徴です。春は、サクラやレンギョウ、モクレンが次々に花を咲かせ、百花繚乱(りょうらん)の華やかさに満ちます。
夏はツツジやショウブ、シャクヤク、秋はカエデが園内を飾り、春とはまた違った美しさを魅せます。
花見山はもともと観光目的で作られている場所ではありません。
実はそこに、花見山ならではの美徳があることを先日、阿部さんにお会いし、会話の中で気付きました。
「見せてくなんしょ」「ほんじゃ、見らんしょ」で53年
花見山の中心である花見山公園は、園主・阿部一郎さんの父、伊勢次郎さんが、生け花などに出荷する花木を生産するために自宅前の山を開拓してできた花畑です。
雑木林だった山を切り開きながら一本一本苗木を揃えては植え、様々な花木が咲き誇る美しい山になっていきました。そうするうちに「花を見せてほしい」と訪れる人が増え、昭和30年頃から一般に開放するようになったそうです。
阿部さんは、「私たちは花の生産農家です。
おいでになる皆さんが「見せてくなんしょ」(見せてください)とおっしゃるので「ほんじゃ、見らんしょ(どうぞ見てってください)」と。開放してから53年、一貫して原点と同じ状態なんです。」と言います。
観光スポットになろうがなるまいが、「花の作り手として丹精込めて花木を育て、美しい花を咲かせる」という信念で作られている。
それが花見山の魅力の一つなのではないかと感じました。
阿部さんは、農業を通して、生きる目的をいかにしてもつか、幸せを感じるかを自問自答し、学んできたそうです。
花見山と一体化してきた阿部さんに花のピークはいつですか?
と質問したところ、
「皆さんおいでになるピークは、やはり桃の花が咲く頃かなあと思います。梅、桃、桜も咲いている、レンギョウも咲いてる。もちろん他の花も咲いてる。すべての春がそこにあるから。でも、私たちは全体像なんて見るよりもね、大きい自然の中で、一つ一つの花を見て楽しんでいます。
ひとつひとつの花に特徴があります。生命があります。
それぞれにいいところがあるんですよ。」
という答えが返ってきました。完成形だけを見ている私たちと、一本一本と向き合い、大事に育ててきた作り手の見方との違いを感じました。
「自分にとってのこの世の浄土」
「福島に桃源郷あり」と呼ばれた花見山。阿部さんにとっての花見山はどんな存在かを伺ったところ、「私はやっぱりこの世の浄土にしたいなと。自分個人でね。人生のね。
生産も大事だけどやっぱり楽しみであり、心を癒す場。畑に行ってもすばらしい花に囲まれた人生、それこそこの世の浄土です。だからきれいにする。手入れする。自分の夢の山ですから。それで皆さんが満足するんであればいいんです。『どうぞ見たい人は見てください』と。
すばらしい花の美しさって伝わるんだからいいんじゃないかなあと。私の夢と、皆さんの夢が一体化したのが花見山だと思っています。」
『美しい花を咲かせたい、また咲かせた花で心から癒される。それを皆と分かち合う』
まさに真の花の作り手です。
花を心から愛す作り手が丹精込めて育てた花だからこそ、こんなにも人を惹きつけ、愛される「花見山」になっているのではないでしょうか。
最後に阿部さんから、こんなお話がありました。
「今年は、大震災という本当に大きな災害がありました。被害に遭われた方がたくさんいらっしゃいます。本当に胸の痛む思いです。しかし、今年も変わらず花見山の花は咲いています。いにしえから、花は心の栄養剤です。花は元気を与えてくれます。花どころではないかもしれません。しかし、今年の花は、り災した方や避難されていらっしゃる方にこそ見ていただきたい。花は、生きるために立ち上がる力を与えてくれると思うんです。」